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利用者さんへの思いで、チームがひとつになっている―世田谷区初の「かんたき」の今―
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利用者さんへの思いで、チームがひとつになっている―世田谷区初の「かんたき」の今―

2017年5月1日に開業した「ナースケア・リビング世田谷中町(以下、NCL)」は、世田谷区で初めての看護小規模多機能型居宅介護(通称:かんたき・看多機)です。
NCLは現在、最大29名が利用でき、7室の居室を完備。「通い」と「泊まり」を柔軟に組み合わせられ、住み慣れた街やご自宅で最期まで自分らしく暮らしたいという利用者さんの思いに寄り添っています。
前回はNCLの立ち上げに臨んだメンバーの思いをご紹介しました。そして今回は、NCL事務長の山田翔太さんへのインタビューです。山田さんが事務長になられた経緯や、働くスタッフの姿を通して見えてきたNCLの「今」をお届けします。

ナースケア・リビング世田谷中町(NCL)
NCLは多世代の交流や地域とのつながりを育む環境づくりを目指す「世田谷中町プロジェクト 」において、地域包括ケアの拠点となっています。世田谷中町プロジェクトでは、約1万坪の広大な敷地の中には「分譲マンション」「シニア住宅」、地域住民も利用できる「共有施設」を併設。NCLは共有施設の4階にあり、1階にはコミュニティサロン、2階には保育園が入り、子供から高齢者まで世代を超えた交流が育まれています。

NCLの併設医療機関「桜新町アーバンクリニック
世田谷区新町の「外来診療」と、世田谷区用賀の「在宅医療部/桜新町ナースケア・ステーション」で、地域のみなさんが「その人らしく」暮らしていけるような医療・ケアを提供しています。
桜新町アーバンクリニックは2009年から在宅医療を始め、これまで1500名以上を診療してきた実績があります。NCLの利用者さんに病気や医療的ケアで変化があっても、桜新町アーバンクリニックの医師と24時間連携が可能。
必要に応じて臨時往診を受けることができます。

 答えてくれた人

山田翔太
(ナースケア・リビング世田谷中町 事務長)

2021年4月(株)メディヴァに参画後、医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニックの在宅医療部にて事務長補佐を務める。2022年4月より、併設する 看護小規模多機能型居宅介護(かんたき) の事務長として運営・経営支援に従事。現場運営の他に、医療機関や自治体主体の在宅医療等の立ち上げや運営支援を行っている。

スタッフからの相談が最優先。仕事の優先順位はどんどん変わる。

山田さんは現在入職3年目ということですが、NCLの事務長になられた経緯を教えてください。

山田:大学院を卒業して初めての所属は、桜新町アーバンクリニックの在宅医療部。運営スタッフとして配属されました。
大学院では免疫系の研究をしていて、その流れで生命科学や疫学にも興味があり、就職先としては医療系を目指していたんです。
入職した年が2021年で、ちょうど医療機関で新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりだした時期だったので、最初はその対応に追われていましたね。

免疫系の研究から、「在宅医療」というと、大きな転換だったのではないでしょうか?

山田:そうなんです。資格を持っているわけではなかったので、本当に飛び込んだという感覚でした。周りでは製薬会社の研究職やMR(医療情報担当者)に就く人が多かったのですが、僕は「もっと現場に近いところで働きたい」という思いがあり、面接の際も「在宅医療」や「臨床」に興味があることをお話していました。実際に働いてみて「思い描いていたところと近い」と感じられています。基本的な医療機関の動き方とか、在宅医療については、働きながら学んでいきました。
NCLの事務長になったのは、僕が入職して2年目。当時の事務長が任期満了を迎えるタイミングでした。これから誰がNCLを見ていくかという話になったときに、僕が「知らない世界で勉強したい」という思いを伝えて、事務長を任せていただくことになりました。
今も在宅医療部の仕事があるのですが、基本的にはNCLにいたいと考えています。ただどうしても在宅医療部にいる時間が長い週もあり、NCLのスタッフからは「もっといてほしい」という声があがっています。そういう風に思ってもらえるのは、ありがたいことですよね。

今日の取材前にも看護師さんから話しかけられていて、もしあの時、取材メンバーがいなければ、山田さんとの会話が続いていたんだろうなと感じました。

山田:そうですね。スタッフの方から相談があった場合は自分の業務は一旦置いておいて、基本はそちらを優先しています。なので仕事の優先順位がどんどん変わる世界ですね。「今日やりたいこといっぱいあったのにな」と思いながら、いつの間に1日が過ぎているという日もあります。

今回の取材場所は、併設するシニア住宅にある和室。NCLとは廊下でつながっており、予約することでNCLの利用者さんも利用できます。普段はカルチャールームとして、囲碁クラブ等が活用されています。

“みんなの働き”がちゃんと伝わるように、大切にしていること

「かんたき」は、まだ一般的にはあまり知られていないサービスですよね。

山田:そうなんです。普段僕はあえて「かんたき」という名称は使わず、ナースケア・リビングかNCLと言うようにしています。
「かんたき」はやはりサービス名称で、勝手な解釈ですけれど、少し冷たい感覚があるんです。NCLの運営母体である桜新町アーバンクリニックとは、物理的な距離も事業内容的にも離れているので、他の事業所との交流が少ない分、僕はきちんとした名前を大切にしたいと思っています。

山田さんのこだわりは、きっとみんなさんにも伝わっていると思います。

山田:そうだと嬉しいですね。
業務的な面では、自分が手を動かすことで仕事が回るようにするというよりは「こうすればできるよね」という方法を提供していくことが大切だなと感じています。

たとえ人が変わっても続けていかなければならない業務はたくさんあるので、大事な視点ですよね。

山田:そうですね。例えば介護保険まわりは必要な届出が多いので、そこは自分だけの作業にならないように気をつけています。お手伝いはするけれど、それぞれの業務に責任をもってやってもらえるような仕組みづくりが必要だと考えています。

職種の異なるみんなが、ひとつの方向に進んでいけている

先ほどできるだけNCLに長くいたいとおっしゃっていましたが、そう感じられる理由はどこにあるのでしょうか

山田:スタッフとか組織に対して仕事をしているのではなく、その先の利用者さんを見て仕事ができているという感覚があるからだと思います。
スタッフのみなさんも、最期が近くなってきている利用者さんに対しては、改めてご本人とご家族に「最期の意向」を確認しようと動いてくれています。職種の異なるスタッフが忙しい中でもみんなそこを大切にして、共通の理解にしようと自然に動けているというのは、そんなに普通のことではないんじゃないかなと思います。

NCLでは看護師、リハビリスタッフ、ケアマネジャー、ケアスタッフとのチームワークが重要で、さらに終末期の方などは桜新町アーバンクリニックとの連携も必要になってきますよね。

山田:そうですね。NCLのスタッフはみなさん「その人の最期」を大切に考え、診療チームとも連携して方針をすり合わせてくれています。本来ならもう少し早い段階で「最期の意向」を伺うということも大切ですが、NCLでは利用者さんと日々の暮らしの中で関わっているので、その中で意向を確認するのはなかなか難しい。またいざとならないと出てこない価値観や考えもやはりあって、そこを改めて関わっている全員で確認しようというのは、プロフェッショナルだなと感じます。
今後の課題としては、場所が離れてはいますが、できる限り診療チームとの関わりやつながりの機会を増やしていきたいと思っています。

世田谷区の「かんたき」として、目指すところは何でしょうか。

山田:世田谷区はもともと高齢者向けの施設が多く、在宅医療もある程度整っている地域なので、「かんたき」の居場所はなかなか見つけにくいということがあります。
そういった点で他の「かんたき」との差別化も必要ですけれど、「しょうたき(小規模多機能型居宅介護)」との差別化も必要になってきていていると思います。施設だけじゃない良さ、例えばサービスの質などをもっと出していければと思っています。

リビング・ダイニングルームは、「調理の様子」が見えるオープンキッチン。できるだけ生活に近い空間づくりを意識されているとのことで、アットホームな雰囲気です。
トイレは利用者さんが自立して一人で行けるように、文字とピクトでひと目でわかるデザインに。また認知症の人は暗い色を段差や穴と認識するため、トイレの中と廊下で床を明るい色で統一しています。

NCLは、日本で初めて英国スターリング大学の認知症サービス開発センター(DSDC)から認知症デザインの最高レベルであるゴールド認証を取得した施設です。

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