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利用者も医療者も共に暮らしを楽しむ場に―世田谷区初の「かんたき」のはじまり―
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利用者も医療者も共に暮らしを楽しむ場に―世田谷区初の「かんたき」のはじまり―

2017年5月1日に開業した「ナースケア・リビング世田谷中町(以下、NCL)」は、世田谷区で初めての看護小規模多機能型居宅介護(通称:かんたき・看多機)です。手掛けたのは同区内で在宅医療や訪問看護を担ってきた桜新町アーバンクリニック。
看多機は2012年に始まった地域密着型サービスで、全国的な広がりをみせています。その多くは訪問看護介護分野の業者や企業による運営のため、NCLのように医療機関が運営を手がけるのはめずらしく、モデルケースとして注目されました。
開業6年目となる今、過去の取材記事をもとに、改めてNCLの立ち上げに臨んだメンバーの思いを振り返ります。

ナースケア・リビング世田谷中町(NCL)
NCLは多世代の交流や地域とのつながりを育む環境づくりを目指す「世田谷中町プロジェクト」において、地域包括ケアの拠点となっています。世田谷中町プロジェクトでは、約1万坪の広大な敷地の中には「分譲マンション」「シニア住宅」、地域住民も利用できる「共有施設」を併設。NCLは共有施設の4階にあり、1階にはコミュニティサロン、2階には保育園が入り、子供から高齢者まで世代を超えた交流が育まれています。

NCLの併設医療機関「桜新町アーバンクリニック
世田谷区新町の「外来診療」と、世田谷区用賀の「在宅医療部/桜新町ナースケア・ステーション」で、地域のみなさんが「その人らしく」暮らしていけるような医療・ケアを提供しています。
桜新町アーバンクリニックは2009年から在宅医療を始め、これまで1500名以上を診療してきた実績があります。NCLの利用者さんに病気や医療的ケアで変化があっても、桜新町アーバンクリニックの医師と24時間連携が可能。
必要に応じて臨時往診を受けることができます。

 答えてくれた人

遠矢純一郎
(医師、桜新町アーバンクリニック院長)

専門分野:呼吸器科、アレルギー科、感染症科、在宅医療、緩和ケア、内科全般。1992年鹿児島大学医学部卒業。大学病院・公立病院などの勤務を経て、2000年用賀アーバンクリニック副院長。2004年から在宅医療に取り組み、2009年より桜新町アーバンクリニック院長へ。世田谷区を中心に家庭医、在宅医として地域医療や認知症ケアに携わっている。

大場哲也
(介護支援専門員、介護福祉士)

施設介護職員として10年ほど勤務した後、世田谷区内でケアマネジャーとして在宅支援に従事する。2016年に現法人に入職し、看多機開設に参画。看多機開業後、地域の医療ニーズに応えるべく運営に携わる。

村島久美子
(作業療法士)

回復期リハビリテーション病院や重度認知症デイケアなどで勤務したのち、認知症初期集中支援チーム事業をきっかけに入職。NCL立ち上げの際、認知症の人にやさしいデザインを意識した家具・備品の選定などにも携わった。

かんたきで「いつもの人が診てくれる」という安心を

かんたきはどういったサービスでしょうか?

遠矢:従来の「小規模多機能型居宅介護(泊まり・通い・訪問介護)」に、訪問看護が加わったものを指します。「ご自宅での生活をできるだけ続けられるように支えるためのサービス群」ですね。介護スタッフと看護師のコラボレーションで、ご自宅での生活を支援しながら医療的な処置治療もできるようになります。
村島:利用者の方々の目線でいえば、今までは体がだんだん辛く、ダルくなってきた時に、変化にあわせて必要なデイサービスやヘルパーさんなどのサービスを事業所ごとに契約していかねばなりませんでした。「かんたき」であれば、たとえば「ナースケア・リビング世田谷中町」と契約するだけでケアプランの作成から、医療依存度にあわせて柔軟に必要なタイミングで必要なサービスを受けることができます。

契約関連の手続きが一度で済むのはありがたいですね

大場:一度の手続きでマルチに使っていただけるだけでなく、顔なじみのスタッフに一貫した対応をしてもらえるところのも大きなポイントです。これまでの介護の仕組みでは、医療管理が増えていくことで、ご本人や介護者の負担がかかることを理由に、入院を余儀なくされるケースが多々ありました。在宅介護サービスでも、受け入れ先が少ないのが現状です。
ご本人に「このまま家で過ごしたい」という思いがあっても、点滴が必要になったり、あるいは末期癌でモルヒネをつかったりする患者さんの対応が、今まで利用していた事業所ではきないと言うケースもありました。自宅を離れるだけでなく、病気などの進行にあわせて対応できる介護事業所を探すなど、関わるスタッフも変わってしまうのです。
遠矢:担当者が変わることは、実は、僕らにとっても同じようにストレスなのです。たとえば病院への入院は、在宅で療養する患者さんにとって特殊な環境です。初対面のスタッフに囲まれ、病室のベッドの上くらいしか自分の居場所がなく、入院前は歩けていた方が、歩けなくなって帰っていらしたり、入院中に認知症が進んでしまったり、というのもめずらしいケースではありません。だからこそNCLでバックベッドをもつことは、利用者の方々に「いつもの人たちが診てくれている」という安心感を提供でき、ストレスやダメージを減らせる仕組みになると考えています。

そのひとらしく暮らすための「自立」と「自律」を支援する

作業療法士が在籍されているという点も、NCLならではですね

村島:NCLで大切にしている「自立支援・自律支援」には、リハビリマインドも大きく必要になってくると考えています。利用者に寄り添うという気持ちのケアだけでは、自立・自律は支援できません。ケアの裏付けとなる根拠を持たないと、介護職も相手の方に適切な説明や動機づけができないのです。
そのような意味で作業療法士が、介護職のサポートが出来ればと考えています。それと同時に、通いの中でご家族の方と、どのような介助方法がいいのか、どのような福祉用具や自助具を使うと楽に生活できるのか、ということもご提案できたらいいですね。

自分が追い求めていた介護を、NCLでならできる

介護業界でキャリアを積んでこられた大場さんは、なぜこの事業に関わることになったのでしょうか?

大場:僕は10年近く特養や老健で現場を経験し、その後、約3年はケアマネジャーとして在宅介護に関わってきました。ケアマネとして桜新町アーバンクリニックの看護師さんと仕事をする機会があり、「今度こういうことをやるよ」という話を伺ったのがきっかけです。

かんたきへの誘いがあった時、迷いましたか?

大場:本当に興味のあることでしたので、決断は早かった方だと思います。その頃、ケアマネとして、「今の介護サービスではどこかで妥協しなくてはいけない、利用者さんを最後まで支えきれない」と悶々としていた時期でもありました。病気が重く、医療依存が高くなった方の入院先、入所先を探そうという時も、なかなか受け入れ先が見つけられない。介護サービス導入時でも「3日間待ってもらえれば」とお返事いただけても3日も待てる状況ではなかったり。でも当時の自分には、それ以上できることがありませんでした。そんな行き詰まりを感じていたタイミングでかんたきの話を伺い、「まさしく!」と飛びつきました。もし声がかかっていなかったとしても、自分で調べて応募していた自信があります。ケアマネという立場上、自分では調整しか出来ない。そこで悶々とするのであれば、自分が動いた方が早いと思ったのです。

利用者も専門職同士も共になって暮らしを楽しむ場へ

遠矢:ケアマネさんの多くは、介護業界出身の方ですよね。介護職の方にしたら、看多機のような医療的なところまでケアする施設は「大変そうだからやめておこう」と思うこともありませんか?
大場:どういう介護をしたいのか、個々の介護観によると思います。介護職が医療を怖がる理由は、「知らないから」「わからないから」というのが大きいのではないでしょうか。「知らない」からと言って、超高齢社会である以上、医療依存度の高い利用者はこれからますます増えていきます。「知らない」「わからない」の解決には、実際に医療と介護がチームで利用者を支える現場を経験することが大事だと思っています。
医療と介護が統合する事で、利用者だけでなく職種の異なる専門職同士も共になって暮らしを楽しむ。NCLをそういった場にすることはこの縁に出会った僕自身の使命だと考えています。技術や知識は後からでも経験しながら積んでいけるものですから、介護を学びたい、楽しみたい、という気持ちのある方が、積極的に学べて経験を積める仕組みを作ることが始めの課題です。


編集後記
「かんたき」の立ち上げには、多職種の連携が不可欠です。NCLのスタッフはみなさん「利用者さんのために」という共通した思いを持っていたからこそ、職種の壁を越えて同じ方向を向いて進んで来られたことがうかがえました。そしてその思いは「ナースケア・リビング」という名前にも込められています。

「ナースケア・リビング」名前への想い

医療的ケアが必要な方でも安心して利用でき、ご家族も休める介護サービスをつくりたい。自宅での生活を継続していくために、セルフケアを高め、生活リハビリを強化したい。そして、そのひとがそのひとらしく居られるところ(Living room)、生き、暮らし続けること(Live-ing)をお手伝いし、そのひとの人生をご家族と一緒に支える存在になりたい。
そんな思いと決意を「ナースケア・リビング Nurse Care Living」という名前にこめました。

ナースケア・リビング世田谷中町ホームページより

次回はNCLの「今」に焦点をあて、現事務長 山田翔太さんへのインタビューをお届けします。

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