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病気だけでなく、
 悲しみ・喜びにも向き合うために―桜新町ナースケア・ステーション看護師インタビュー

「医療だけでは、医療現場は回らない」
NICUや化学療法病棟で経験を積む中で、そう感じるようになったという坂詰さん。悲しみや喪失に寄り添うグリーフケアとの出会いをきっかけに、その根源ともいえる「スピリチュアルケア」を学ばれました。現在は、桜新町ナースケア・ステーションの訪問看護師として、スピリチュアルケアを実践されています。
訪問の時間を心から楽しまれている坂詰さんがこれまで歩んできた道、そしてこれから先に目指すケアの形に迫ります。

桜新町ナースケア・ステーションとは
「ひとりひとりの生き方や価値観」を大切に、世田谷区を中心に訪問看護を提供しています。桜新町アーバンクリニック(外来・訪問診療)や桜新町ナースケア・プランニング(ケアマネ)とも連携しながら、医療的なニーズが高い方の訪問にも対応しています。

 答えてくれた人

坂詰大輔

(桜新町ナースケア・ステーション看護師・臨床スピリチュアルケア師)

「何かが足りない」
医学を突き詰める中で感じた違和感

まずは坂詰さんが看護師を目指されたきっかけをお聞きしてもよいでしょうか。

実は、看護師の勉強を始めたのは社会人になってからなんです。家庭環境が複雑だったこともあり、高校卒業後は「一日も早く自立したい」という思いでアルバイト生活を始めました。でも長くは続かず…。「何もかもやめたい」という気持ちになり、貯めたお金でバイクを買い、東京から北海道まで一人旅に出たんです。北海道では、キャンプ場にテントを張って暮らしていました。見ず知らずの人と食べ物を分け合うような生活でしたが、その様子を心配してくださった方が、水産加工場での住み込みの仕事を紹介してくださって。それからは少し生活が安定しました。

大変な生活をされていたんですね…

そうでしょ(笑)。でも、楽しかったんですよね。ただ、こうして気ままな生活を続けていていいのかなという不安もあり…。20歳になる頃に、東京に戻ることを決めました。

東京ではまたアルバイトを始めたのですが、一緒に働いていた人が看護師を目指していて、ふと「自分も看護師になろう」と思い立ったんです。専門学校の学費も自分で出せそうということもあったのですが、急な心変わりに周りは驚いていましたね。当時はまだ「看護婦」時代。男性看護師が珍しいというのもあったと思います。

勉強を始めてみるととても面白く、専門学校にも無事合格。卒業後は大学病院に就職しました。働き始めてからは、さらに医学が好きになり、CTやMRIなどの読影についても積極的に学びました。


医学への探求心が高まる中で、看護師5年目にNICU(新生児集中治療室)へ転職したことが大きな転機となりました。
300g台という本当に小さな赤ちゃんもいる中で、医師や看護師は「絶対に助ける」という強い思いで、あらゆる手を尽くします。それでも救えない命はありますし、あまりにつらく赤ちゃんに会いに来られなくなるご家族もいらっしゃいました。そうした日々の中で、「医療だけでは、医療現場は回らない」と感じるようになったんです。

その後、転職した大学病院で1年間NICUに勤務した後、同病院の化学療法病棟に異動しましたが、その間もずっと「何かが足りない」という気持ちがありました。

化学療法病棟では、患者さんは治療が終わると別の病棟へ移られたり、退院されたりします。けれど私は一緒に頑張ってきたみなさんと会えなくなることが、どうしても寂しかった。そこで自主的に「ほっとけないプロジェクト」と名付けた取り組みを始め、仕事終わりに別の病棟に移られた方々に会いに行ったりもしていました。

患者さんにとっても嬉しいプロジェクトだったのではないでしょうか。

会いに行くと、とても喜んでくれました。
そうした取り組みをする中で、改めて医学を突き詰めるだけでは埋められないことがあると感じるようになり…その頃に出会ったのが「グリーフケア」という言葉でした。悲しみや喪失のケアという考え方があることを知り、「自分が本当に大切にしたいのは、こういうことなのかもしれない」と感じたんです。

調べる中で、上智大学の「グリーフケア研究所」の存在を知り、すぐに受験しました。
入学後にまず伝えられたことが「スピリチュアルケアの専門職を目指してほしい」ということ。私自身はスピリチュアルケアという言葉自体、聞いたことがなかったのですが、グリーフケアを含むスピリチュアルケアについて、2年間のカリキュラムを通じて学びました。

「治るか、治らないか」を問う世界から、答えのないことにも向き合う世界へ

具体的にはどのようなことを学ぶのでしょうか?

スピリチュアルケアが日本より浸透している欧米では、医療従事者だけでなく、チャプレン(聖職者)を中心とした多職種のチームでスピリチュアルケアを実践しています。研究所でもそのスタイルを取り入れていて、葬儀社の方や司祭など多様な方と机を並べていたのですが、私はそれがすごく良いなと思っていました。講義においても1年目は宗教学や哲学、人文学など多様な分野からスピリチュアルケアの本質を、2年目からは医療従事者を講師に迎え、医療現場にどうつないでいくかを学びました。

実習では受入先を自分で探すのですが、「スピリチュアルケアとは?」という部分から説明しながらということもあり、なかなか見つからず…。最終的にはあるホスピス病棟が受け入れてくださり、実践的な部分まで随分勉強させてもらいました。

これまで私は「治るか、治らないか」という医療の世界で働いてきました。けれど人は病気だけでなく、さまざまなグリーフ(喪失感や悲しみ)を抱えながら生きています。そうした答えのないことに向き合うことも大切なのではないかと、研究所での2年間を通して感じるようになりました。

研究所を修了されてからはどのような道へ?

2年間学んだ後、次のステップを考えたときにまず思い浮かんだのが桜新町アーバンクリニックでした。実は実習先を探していた頃、教授から「もし受入先が見つからなければ、桜新町アーバンクリニックという面白いところがあるよ」と教えていただいていたんです。

研究所の先輩もいると知り、さっそくメールでご相談したら、すぐに見学の調整をしてくださって。実際に訪れると、訪問診療を提供する桜新町アーバンクリニックと、訪問看護を担う桜新町ナースケア・ステーションのスタッフが、ひとつの空間でデスクを並べていました。医師や看護師、理学療法士などの多職種が垣根なく働いている。その様子は、昔写真でみたニューヨークの訪看ステーションを思い出す光景でした。
院長の遠矢先生の訪問診療にも同行したのですが、お一人おひとりに合わせて柔軟な診療をされていることに感銘を受け、「ここしかない」と思いました。

多職種がデスクを並べる桜新町アーバンクリニック在宅医療部(訪問看診療・訪問看護)のオフィス(2017年当時)

人生の最期も、最高の瞬間も、すべてに寄り添うために

桜新町ナースケア・ステーション(以下、「桜新町」)では、学んできたことをどのように展開されているのでしょうか?

入職当初は、まずは看護師として認めてもらえるよう頑張ろうという思いでした。ただ、桜新町には「しの勉」という院内勉強会があり、そこでスピリチュアルケアについてお話しする機会もいただいています。

勉強会での資料(抜粋)

これはスピリチュアルケアの説明の際に、よくお見せしている図です。この「Zoe」というのはフランス語で〝40億年続く生命〟のことを指します。それに対して白い波線は、個人の命の動きです。人の数だけさまざまな形があるのですが、人生の最高の瞬間が上で、最終的には40億年の生命の流れに戻ることを表しています。

この波線のような、人それぞれにある命の動きが「スピリチュアル」で、死にゆく過程だけでなく、楽しいときも、すべて含めてケアすることが「スピリチュアルケア」だと、私は考えています。

スピリチュアルケアは、具体的にはどのようなケアなのでしょうか?

たとえば桜新町のスタッフは、終末期の方のつらさを和らげ、穏やかな着地の方法を探っています。それは見方を変えれば、スピリチュアルケアなんですよね。

命の成り行きに対して無力であることを認めつつ、できることを探る先生や看護師さんの姿を見て、本当にいつも素晴らしいなと感動するんです。

日本ではスピリチュアルケアを専門に学んだ人が医療現場で活躍する機会は、まだまだ少ない状況です。私が利用者さんのご自宅に伺い、これまで学んできたことを生かせているのも「看護師」という通行手形があるからこそなので、今、とても恵まれた環境にいるなと感じています。

スピリチュアルケアの価値を、少しずつ社会に広げていくために

お話を伺っていると、人への興味が深いことを感じます。

知りたがり屋なんですよね(笑)。知らないことを知るのはとても楽しいですし、「人をもっと理解したい」という思いがずっとあります。身体的・精神的・社会的な背景だけでは理解しきれない人間の存在に惹かれるんです。

実は父が最近亡くなり、人間って不思議だなとますます感じるようになって。借金や暴力があり、子どもの頃から大変な思いをしてきました。ただ認知症を患ってからはいつもにこにこしていて。腹立たしい気持ちにもなり、その感情も否定したくないのですが、それでも父にもきっと父なりの人生があったのだろうと思うんです。

自分自身や家族のことを紐解いてもやはり奥深くて、人間への興味が止まらないんですよね。

そうした視点を持つ坂詰さんのアプローチを受ける利用者さんは、きっと楽しいだろうなと思います。

訪問先で、その方が生きてこられたこれまでのことをお聞きしたりするのですが、私にとってもその時間は本当に楽しいんです。
最近は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の方とのコミュニケーションについて考えています。ご本人は話すことも、反応することもできないのですが、一緒にいる時間の中で、私の気持ちが動くんですよね。温かい気持ちになったり、悩みを聞いてもらってスッキリしたり。コミュニケーションをとる際、相手の反応に注目すると見失いがちですが、広い視点で二人の間で何が起きてるのか「現象」をみることが大切ではないかなと思っています。

どんな場合でも、コミュニケーションは基本的にはボタンの掛け違いだと考えていて。今こうしてお話ししているときも、私の頭の中には色々な感情や考えが飛び回っています。言葉にするのはその中のほんの一部で、さらにその言葉を相手がどう受け取るかもわからない。私にはそれがとても面白いんです。正解を求めず、ズレを楽しむ。それがきっと豊かなコミュニケーションにつながるのではないでしょうか。

今後、桜新町で挑戦していきたいことはありますか

私自身が最期を迎えるときには、スピリチュアルケアを受けたいと思っています。
人は成長の過程でさまざまな人格を身につけますが、その人格を取り除いて残った命そのものも大切だよと言ってくれる人が、やはり必要な気がしています。

桜新町でスピリチュアルケアと医療をつなぎ、その価値を少しずつ社会へ広げていく。そうしたことに貢献できたなら、いい人生だったなと感じられると思うんです。そして桜新町なら、それが実現できると考えています。
後輩のみなさんがスピリチュアルケアについて知り、「面白い」と感じてくれたならありがたいですし、違う意見が出てきて、新しい考え方が生まれてくれることも、また嬉しい。
そういった意味で世の中の潮流がどうなるかは全く分からないですが、今はそのこと自体に、とてもワクワクしています。

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