長瀨健彦
(青葉アーバンクリニック院長)
専門分野:在宅医療、形成外科。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後 、聖マリアンナ医科大学病院、聖隷浜松病院、湘南厚木病院等を経て、2012年鎌倉アーバンクリニック入職、2015年青葉アーバンクリニック院長就任。青葉区医師会理事。何でも相談できる「かかりつけ医」を目指し、青葉区の在宅医療を支えている。
青葉アーバンクリニックは、高齢化が進む青葉区での在宅医療のニーズに応えるため2015年に開院。ご自宅や施設への訪問診療を中心に、外来診療や地域とのつながりを大切にした取組みも行っています。
そんな青葉アーバンクリニックについて「今が転換期」と仰るのは、開院時から院長を務める長瀨健彦先生と組織運営をサポートする副事務長の井上香さん。お二人のお話から、地域を支えるクリニックとして目指す「これからの姿」が見えてきました。
答えてくれた人
長瀨健彦
(青葉アーバンクリニック院長)
専門分野:在宅医療、形成外科。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後 、聖マリアンナ医科大学病院、聖隷浜松病院、湘南厚木病院等を経て、2012年鎌倉アーバンクリニック入職、2015年青葉アーバンクリニック院長就任。青葉区医師会理事。何でも相談できる「かかりつけ医」を目指し、青葉区の在宅医療を支えている。
井上香
(医療法人社団プラタナス 運営メンバー)
高齢者介護サービス事業および、保育・学童事業を展開する企業で保育事業の組織運営、介護領域での法人向け事業に従事した後、株式会社メディヴァに入職。現在は青葉アーバンクリニックの運営支援業務を担当。
長瀨:15年くらいですね。専門としては形成外科なのですが、以前勤めていた病院では、外科や脳外科、整形外科の手術をお手伝いすることもあれば、訪問診療を行うこともありました。
青葉アーバンクリニックでは開院時から院長を務めていますが、私はリーダーとして前に立ってみなさんを牽引してきたという感覚はあまりないんです。
井上:青葉アーバンクリニックが地域に根付いて来られたのは、長瀨先生のお力が大きいと思いますよ。私としてはもう少し前に出て欲しいとも思っているのですが…。ただ先日、ある演奏会に行ってから、その考えが少し変わりました。「オルフェウス室内管弦楽団」という、指揮者なしでの演奏スタイルを貫いている楽団なのですが、お互いをしっかり見て、呼吸を合わせることで見事に演奏を成立させているのですよね。
当院でも、院長の指示だからやるというのではなく、スタッフみんながお互いのペースを見合って、自律しながらプロフェッショナルを発揮していくことができれば、それはそれで素晴らしい組織になるのではないかなと思いました。
長瀨:指揮者がいない演奏でいうと、バンドもそうですよね。バンドはドラマーが指揮者に近い役割を担っていますが、一番後ろでリズムを刻んでいますよね。
井上:では、先生はドラマーでしょうか?
長瀨: そうですね(笑)。私はみなさんが力を発揮できるように、後ろからサポートしていければ良いかなと思っています。
長瀨:結局、在宅医療は「治癒」ではなく「お看取り」がゴールなんですよね。これまで私が担当してきた患者さんのご家族は、最期を迎えた時にみなさん笑顔になられます。それは病院での「治す医療」とは異なりますよね。
もちろんご家族だけではなく、ケアマネジャーさんや訪問看護師さん、施設のスタッフも、みなさんで患者さんを支えてきて、最期に「良かったね」で終われるというのは、在宅医療ならではのことで、私が一番やりがいを感じている部分です。
井上:「自分の物差しを問う」ということは意識しています。前職では保育事業や介護事業の立ち上げに携わってきたのですが、医療業界はプラタナスが初めてです。そういった中で、今までの価値観では判断できないこともあると思っています。先生方、看護師さん、事務さん、一人ひとり背景は異なりますが、きっと大事にしたいことは一緒なはずなので、そこを基準にしていけたらいいですよね。
井上:「患者さんにとっての最善」を考え、自分にできることをやっていきたいという思いはみなさん持っているのではないでしょうか。だからこそみなさんここにいるのだと思います。ただそれぞれの職種で考える「最善」が異なるケースは多いんですよね。どちらが正しいということではなく、対話を通じてクリニックとしてこうして行きましょうという判断をしていきたいと思っています。
長瀨:私は患者さんの最善を考えるとき、「患者視点」だけに偏らないように、ある意味「上から目線」になることも重要だと思っています。上から目線というと誤解されそうですが、もちろん見下すということではなく、ずっと上の方に視点を持ってきて、患者さんの周りに「誰が」いて「何を」「どのように」やっているかを俯瞰するということです。
患者さんだけではなく、その後ろにいるご家族や、医師、看護師、ケアマネジャー等、関わるすべての人に目を向けることで、今みなさんが何に困っているかとか、 どんな思いを持っているかというのが見えてくるので、そこを把握した上で必要な時には患者さんの目線に戻ってくるようにしています。
新しい世代の方には、「将来の夢」をもっと語ってもらいたい
井上:「患者さんや連携先のために」を原動力に率先して動いてくださる事務マネージャーさんがいるのですが、受け入れが難しそうな患者さんでも、何とか対応できないかというのを常に考えておられるんです。本当に職人技だなと思います。
ただこうした姿勢を他のみなさんにも求めるというのは、少し違うように感じているんです。一人で頑張れば良いということではないのですが、様々な職種と連携できる体制を仕組み化して、カバーできないかなというのは今思っているところです。
長瀨:今、転換期ですよね。クリニックを立ち上げるときは、やはり職人技を発揮できるような人が、どんどん組織を作っていかなければならないですが、規模が大きくなり、軌道に乗ってきたところで、次は組織をまとめていく必要がありますよね。
新しい世代の方たちには、「自分たちはこうしていきたい」という将来の夢を語ってもらい、それに向けて組織をどうまとめていくかという視点を持って欲しいなと思います。どうしても目の前にある問題を考えがちですが、もっと先々を見越していくことも大切ではないでしょうか。
井上:先ほど長瀨先生がおっしゃっていた、「ご家族が笑顔になれる最期」に貢献できるというのは大きな魅力ですよね。
またどの職種でもワークライフバランスを実現できている点も、当院の特徴だと思います。女性が多い職場なので、子育てと両立されている方もいらっしゃいます。運営としては、本来は3人でやるところを4人でするというような体制の構築もできればなお良いなと考えているところです。
長瀨:2021年にあざみ野に移転した際、病気になるずっと前から地域の人とのつながり、最期まで支えていけるようなクリニックにしたいと考えていたんです。
例えば定年退職後の、まだ身体を元気に動かせる時期って大事だと思うのですが、デイサービスに行くほどの年齢ではないですよね。そういう方に向けて健康教室や料理教室などのイベントを開催したいと考え、キッチン付きの相談スペースを併設したのですが、新型コロナウイルスが流行して思うような活動ができなくなったんです。
井上:制限が多い中でも、看護師さんが何とかできるイベントをと考えてくださったのが「よってこ」です。相談スペースを「地域の方々がひと息つける憩いの場」として定期的に開放していて、ただお茶をしておしゃべりするだけの日もあれば、ちょっとしたイベントを行う日もあります。少しずつ街の人にも認識してもらえるようになり、「いいね、こういう場所」という声もいただけるようになりました。
長瀨:当院がもともと、青葉区の在宅医療のニーズに応えるために医師会の要請を受けて開設したという経緯もあり、医師会をはじめ地域の医療介護事業者や住民のみなさんと深い関わりを築いてきました。例えば青葉区医師会の事業にも積極的に協力しており、私や事務長が住民向けの講演会で壇上に立ったり、地域でのグリーフケア事業の立ち上げをサポートしたりしています。
また今年は、厚生労働省が整備し、各自治体が推進する「在宅医療において積極的な役割を担う医療機関」に手を上げました。地域との深いつながりを大切にしながら、これからは青葉区における在宅医療のセンター的な機能を果たしていければと思っています。